目の周りの取穴部位と刺鍼法(仰向け)

下攅竹(小宮穴1)、攅竹、小宮穴2、小宮穴3、魚腰、太陽。曲鬢、頭維

目次

眼窩上縁・上瞼の刺鍼法

1、下攅竹(小宮穴)

眼精疲労を起こしやすい近方固視作業は、眉間部分に負荷がかかります。また、この時に作動する「内側直近」「上斜筋」「上眼瞼挙筋」「眼輪筋」「「皺眉筋」は、眼窩鼻側上部に集中しています。さらに、滑車上神経、眼窩上神経、動脈・静脈などがあることからも、眉間の眼窩縁部が最も重要な刺鍼ポイントとなります。ここには「攅竹」という経穴が存在します。

私たちは臨床上、教科書的な「攅竹」にも鍼を打ちます。しかし、実際に目の奥に関連した硬結は眼窩縁部よりも、少し奥側に存在します。小宮式では、このポイントを「下攅竹(小宮穴)」として、眼窩内刺鍼を行います。

下攅竹の「すくい打ち」

基本穴
下攅竹(小宮穴)は、横刺で眼窩骨の窪みに鍼先を5㎜~1cm程滑り込ませます。鍼の操作は、水平状態からさらに、すくいあげるイメージで眼窩縁下内側に刺入していきます。眼窩鍼といっても深部まで刺入はしません。尚、1寸の鍼を半分以上刺入する場合はあります。

下攅竹部には、上眼瞼挙筋の基幹部、上斜筋の滑車切痕、上滑車神経などの三叉神経が存在します。瞼の不具合、眼球運動不良、眉間頭痛、目の奥の痛みにの緩和に効果が期待できます。押し手や刺し手で眼球を圧迫しないよう注意が必要です。

眼窩縁部の「扇打ち」

攅竹周辺には、他にも「魚腰」などの経穴があります。これだけでは眼窩上縁にこびりつくような粒状・スジ状の硬結を捉えられないので、当院独自の主取穴部位を加えた治療を行っています。

特に、攅竹の外側は、鍼が扇状になるように眼窩縁に沿って打っていきます。いずれも横刺、または20度斜刺で5mm程度刺鍼します。攅竹外側に打つ鍼の本数は、攅竹を含めて4本です。重度の患者さんの場合は、追加穴にも鍼を置鍼します。眉間片側だけで10本位の鍼を打つケースもあります。

攅竹の「扇打ち」とは

「扇打ち」とは、攅竹穴を起点(要)として、放射状に鍼を打ち、置鍼する技法です。目の周囲に刺さっている鍼の光景が、まるで扇(おうぎ)を広げた型のように見えることから「扇打ち」と命名しました。これは、小宮式独自の技法です。

攅竹は、字のごとく「竹」が「寄り集まる」という意味があります。一方、扇(おうぎ)は、現代の扇子(せんす)のことですが、「風を起こす道具」として、また文化、装飾、芸術、芸能など古来より様々な用途で用いられてきました。扇は「竹」を束ねて、「要」止めをすることで、可変式となっています。これはまさに、攅竹に鍼を打つ際のイメージングにぴったりです。攅竹の扇打ち、が鍼灸の歴史に残るような技法となるべく、新たな風を起こしたいと願っています。

眼窩下縁・下瞼への刺鍼法

下瞼への刺鍼は内出血のリスクが高いので、基本治療では行いません。患者さんに内出血のリスクを説明したうえで必要に応じて追加穴・特効穴に刺鍼します。

緑内障や網膜疾患の特効穴
清明は、緑内障や網膜疾患などに有効です。清明穴に1cmほど垂直刺する場合がありますが、眼精疲労の治療では次に述べる「下清明」を持ちるのが良いでしょう。

下瞼の追加穴1
下清明(小宮穴)は、頭側から内下方へ横刺しで5㎜ほど刺入します。こちらは刺激が出やすい部位です。下清明はドライアイの症状に有効です。

下瞼の追加穴2
球後は緑内障の特効穴です。また下瞼への刺鍼はドライアイに有効です。いずれの穴も、眼窩縁部の骨端に向けて横刺で5㎜程度刺入し置鍼します。

こめかみ・側頭部の鍼の打ち方

眼精疲労におて、こめかみ・側頭部は第二の重要な治療ポイントです。特に「こめかみ・側頭筋」は、近方凝視時に必要な眼球寄せ(寄り目)を保持する際に、力が入る部位です。また、側頭筋のこりは、孫悟空の輪と称される緊張型頭痛の原因になります。こめかみには「太陽」という経穴が存在します。

また、「こめかみ・側頭筋」は、眼輪筋を中心とした開眼保持による筋緊張が強く出る部位です。

さらに、目を頑張って開けようとすると、同時に顎関節の食いしばり、噛み絞めによる側頭筋緊張が起こることがあります。「こめかみ・側頭筋」は、複合的な筋緊張の慢性化によって、広範囲にスジ状のコリが形成されるのが特徴です。

基本穴
太陽、頭側から足側へ内下方に20~45度斜刺で1cm位まで刺入します。曲鬢、頭維は、眼球方向に向け20~45度斜刺で5mm~1cm位まで刺入します。

眼窩縁部の狭い範囲に安全かつ的確に鍼を打つ手順

小宮式は、複数の硬結部に鍼を打ち、置鍼します。そのため、目の周りなど狭い範囲に鍼が密集する形になります。実際の治療では、既に鍼が刺さっている上下左右に、数ミリ間隔で、鍼を追加していきます。そこで、鍼を打つ順番や押し手の型が重要となります。小宮モデルでは、安全性と治療効果、また施術の行いやすさを考慮し、鍼を打つ順番を取り決めています。

ケース1 上瞼、側頭部のみに鍼を行う場合

1、右目・上眼窩縁部の施術

術者は患者さんの頭側に位置します。患者さんの頭頂部から、30度斜め右側に位置すると押手が作りやすいです。硬結部が集中しやすい眉間部分から耳側へ順番に鍼を打ち置鍼します。(右下攅竹→右攅竹→右小宮穴1→右小宮穴2→右魚腰2)

2、左目・上眼窩縁部の施術

術者は患者さんの頭側に位置します。患者さんの頭頂部から、45度斜め右側に位置すると押手が作りやすいです。同様に眉間部分から耳側へ順番に鍼を打ち置鍼します。(左下攅竹→左攅竹→左小宮穴1→左小宮穴2→左魚腰2)

3、右左こめかみ・側頭部の施術

術者は患者さんの頭側に位置します。

右太陽→右側頭部→左太陽→左側頭部の順番で鍼を打ち置鍼します。

ケース2 上瞼・下瞼、側頭部、前頸部に鍼を行う場合

1、右目・下眼窩縁部の施術

患者さんの頭側に位置します。患者さんの頭頂部から30度斜め左側に位置すると押手が作りやすいです。右下瞼の目尻側から鼻側方向に順番に鍼を打ち置鍼します。

2、右目・上眼窩縁部の施術

術者は患者さんの頭側に位置します。患者さんの頭頂部から、30度斜め右側に位置すると押手が作りやすいです。眉間部分から耳側へ順番に鍼を打ち置鍼します。(右下攅竹→右攅竹→右小宮穴1→右小宮穴2→右魚腰2)

3、左目・下眼窩縁部の施術

患者さんの頭側に位置します。患者さんの頭頂部から45度斜め左側に位置すると押手が作りやすいです。左下瞼の目尻側から鼻側方向に順番に鍼を打ち置鍼します。

4、左目・上眼窩縁部の施術

術者は患者さんの頭側に位置します。患者さんの頭頂部から、45度斜め右側に位置すると押手が作りやすいです。同様に眉間部分から耳側へ順番に鍼を打ち置鍼します。(左下攅竹→左攅竹→左小宮穴1→左小宮穴2→左魚腰2)

5、右左こめかみ・側頭部の施術

術者は患者さんの頭側に位置します。

右太陽→右側頭部→左太陽→左側頭部に刺鍼して置鍼します。

6、右左前頸部の施術

術者は患者さんの頭側に位置します。

右胸鎖乳突筋→左胸鎖乳突筋に刺鍼して置鍼します。

こめかみ側頭部の追加穴へのしだれ打ち

側頭部の経穴は、あくまで取穴の目安です。触診により、スジ状の筋硬結を見つけ、筋繊維に鍼を刺入します。安全性の高い部位なので、刺鍼方向や深度に関しては、特に規定はありません。尚、側頭筋のコリが非常に強い場合は、斜視・斜位などの眼位異常が隠れいてる場合があります。また、顎関節症を合併している場合もありますので、顎関節の鍼治療を追加で行うケースがあります。

感覚神経に鍼が当たるとビリっとした電撃痛が放散する場合があります。また、抜鍼後に頭皮から出血があった場合、髪の毛で気づかないことがありますので、十分に消毒を行ってください。

頭頂部・前頭部の鍼の打ち方

強い精神的ストレスを受けている患者さんや自律神経を失調している患者さんは、頭頂部が浮腫んでいる場合が少なくありません。そのような場合は、「百会」「四神聡」にも鍼をして置鍼します。また、目の視力に関係した「目窓」「承光」などにも鍼を打ち置鍼します。

参考

当院では、側頭部・前頭部・頭頂部の鍼は、眼精疲労の治療オプションとして位置づけています。例えば「眼精疲労」+「頭痛」などは、ニーズの高い治療となっています。

この記事を書いた人

目次
閉じる